• 銭形の三連長屋S ≒ 1/300
    組み立て難易度✪✪

築 年

昭和初年

所在地

日本橋小網町

業種・用途

小料理店ほか

 「親分! てぇへんだ」とガラッ八が駆け込む神田明神下の長屋は、小網町の特許・紫蘇巻燒鳥の錢形が入る三連長屋よりはもっと狭くて簡素な造りだったか。江戸一番の捕物帳名人、銭形平次の生みの親である野村胡堂にゆかりの銀座の割烹から暖簾分けした店で、紫蘇巻焼鳥の特許は昭和47年に取得した。
 炭をおこす板場から、ぱちんぱちんといい音がする。アイデア創作料理などという言葉がまだ聞きなれないころに考案された紫蘇巻燒鳥は、青じその香りたつ風味に塩加減がちょうどよく、柔らかな鶏の身と紫蘇の葉を焦がさず焼きあげる調理法に工夫があるのだそうだ。

 「小網町ってほんといところ」と話す女将さんは、亡くなられたご主人にかわり二代目とともに親子で店の暖簾を守る。イラスト用に写真を撮らせてください、とお願いすると「だったらハタチに見えるように描いてね、皺なんか描いたら承知しないわよ!」と少女のように笑ってくれた。当面の悩みは東急百貨店が閉店し地下食品売り場がなくなってしまったことで、買い物にとても不自由している、どうにかならないかと真顔で訴えられてしまった。しがない雑文書きにはどうすることもできない。
 三連の長屋全体をよく見ると、2階の窓にはアーチの装飾が施され、芭蕉の葉ような凝ったレリーフもある。鎧河岸に面した小網町界隈の、一等地の賑わいをひっそりと偲ばせてくれる建物ではないだろうか。

(月刊日本橋 2003年6月号附録)